合図受け 毛繕いやめ 空(くう)を見る ハタチの愛猫(ねこ)の 瞳(め)は静まりて

「早いねえ」 言い交わす中 嘘ありて 歩み直しの 日々の緩さよ

「熱発(ねっぱつ)」と 看護教師は 言いたりし いずれにしても 疾く平熱に。

「がわ」て なに? 「み」から離れた「かわ」のこと えんがわ? ぬけがら? おまんのかわよ

選ばずに 粒子のせのせ のせのせし エアブラシのごと 雪は降りつむ

たわいなき 言葉行き来す 夜電話 今日の恵みを 確かめあいて

今日一日(ひとひ)の 喜び胸に 敷き詰めよう 未来の不安の 余地なくすほど

ハリネズミ 馴染みの木より 贈られし 洋梨ひとつ 背中(せな)にささりて

娘(こ)キリンは 箱に詰められ 売られゆく 見知らぬ土地で 仔を成す命(めい)受け

いにしえの 茶道の所作が よみがえる 老猫の後脚(あし) マッサージしおりて 肌触り 厚み大きさ 気に入られ 新約聖書は 猫のまくらに

水越しに 合図やりとる とととねこ 赤いフリルと しましましっぽ

ふと我に返るごとくの夏の夕 ここにこうしている我は誰(た)ぞ

「決めたこと」ソプラノの主は微笑みて 山百合のごと とめるすべなく 我が夫(つま)のスリッパの音聞き分けつ 小部屋を巡る人間ドック

その日来てコイルとなりて廻りたる 猫を獣医師は「てんかん」と診る

花柄のネッカチーフがしわくちゃの 小顔包みしスナフキンばあちゃん 「昨年はカラ梅雨だった」と言いみれば 「それが岩手(ここ)の。」と二巡目の初夏

猫15夫40夏の夜に 同じ姿勢(かたち)で夢野漂ふ

たちぎれし つるの先には涙球(なみだだま) 伸びゆく筈を つめてふくれて 失った右後ろ足 動きいる 右耳の痒み「掻くのは俺や」

教会の子ら遊び弾くピアニカの 賛美歌の次に「♪アカジニシロク...」!? 北に住み 西の月刊情報誌 取り寄せし訳を 書店主は問わず

前かごをパンくずで満たし岸に立つ 少年の背に「だけど続ける」

遠き地の駅前にありて 我が父の 我が母のような背中見る朝

「ここどごだぁ!?」運ばれて来し鉢に乗り 着きしベランダ 吠える蟻たち 風呂で聞く 急ぎ去りゆく線路音(ね)は 頭(かしら)を北にとる「はるか」なり

子 育てず 過ごす四十路(よそじ)を 「飛び級」と言われ 泡立つ我がこころなり

北国に連れてこられしミズナラの 硬き冬芽はついに開かず

舐められぬうしろくびだけ粗い毛を 撫でながら知る余地のぬくもり 近すぎて自分の親にできぬこと 他人(ひと)にはできて成り立つ輪あり 「母である自分で他人(ひと)に接する」と 言う友の瞳(め)は少女のままに 甘すぎず風味豊かな栗ケーキ 持たせし友の…

ひだまりに毛皮干す猫 伸ばす足 桜ひとひら肉球に添う

わがままになりし我が身に気付く夜 「自由」業たる功罪を見る

十字架にことりとまりて弟子の数 放たれし空 ペンテコステの 「笑ってる」聞きて見下ろす膝の猫(こ)は 口角上げて見上げていたり 熱風に乾きし茶髪 群れ嫌い 離れし30本ゴミ箱に落つ

強風にあおられ白き一片は ますぐに天へ昇りゆくなり 教会に向かう窓より夕暮れに 十字架の西辺光るを眺むる

「時がいる!手足放って寝るまでは」 どんぐりまなこでわが猫(こ)言いたり

待ちかねて開花宣言出し朝は 「出たね」「やっとね」で通じる挨拶